「いい天気ね」

気怠げに眼前にかかったブロンドを払った少女は、頬杖をついていた。視線は窓際の蕾が膨らみだした撫子の鉢の向こうの景色にあった。

いい天気――かつては主に、銀河系の恒星”太陽”の光が青空より大地へと降り注ぐ快適な環境のことを指していた言葉という。

もちろん現在もその意味で使用されることはあるが、少女の見る窓の外はすべていつどこに向いても闇の中で、きらきらと小さな光の粒が散らばっている。

生活の場としての宇宙への進出から百年も経つ二二〇〇年代ともなれば、いい天気とは今では専ら宇宙の屑が少なく視界に靄がかからないことを想像させると言葉となっていた。

「珍しいね。りっちゃんがそんな情緒的なことを言うなんて」

部屋の奥にあるキッチンスペースから両手に皿を抱えた男がでてきた。

体格は中肉中背、少し猫背気味の中年男性。

彼らの住む小規模の宇宙艦でドック内に一角を占めるほどの立派なキッチンスペースを備えていることは珍しかった。

宇宙艦ーー通称アフロディーテ。

最大積載量からしても一桁の人数が限界となる小規模量産機体の初代機で、性能は後継機よりも劣るが、名前の通り丸みを帯びた白の機体とアンティーク調の内装は古い印象を押しのけてでも美しい。

「ごはんだよ〜」

男は機嫌がいいらしく、楽しげな声を少女にかけながら、テーブルに食事をならべていく。

少女は窓の外を見るのをやめ、椅子に座りナプキンを整えるとテーブルの上に並ぶ食事にようやく興味を示した。

メインの皿にはまとまりがなくボロボロになったオムレツと、焦げの目立つソーセージ。

トマトや、レタス、きゅうりなどを盛り付けたサラダボウルは、カットは一寸の狂いもなく見事だったが、野菜の水分というには多すぎるほど水浸しで粉チーズは沈み込み、ドレッシングが薄まっている。

中央のバスケットに並ぶパンは手作りをあきらめたらしく、無事美味しそうなフランスパンが三、四つ積まれていた。

「いやー料理って案外難しいけど楽しいね」

少女は、男が言い訳をしながら照れ臭そうに差し出したフォークを手に取ると数ミリ眉を内側に動かしシワを寄せた。

「デルタ、貴方が作ったの?」