「あ、えっと、僕、貴方のファンでした」

我ながらあまりに状況にそぐわない間抜けな言葉だな、と思った。

* * *

それは、18世紀末の産業革命のように。

または、20世紀末に急速に広まったインターネットの起こりか。

21世紀に浸透し始めたおもちゃのようなAIは加速度的に成長し、現実から仮想世界へと向かっていた矢印をあっさりと反転させた。

――仮想元素(バーチャルエレメント)。

現実と仮想をつなぐ、世界に足りなかったただ一つの要素。  技術をしらぬ一般人が無線の有用さを当たり前のように享受していたのと同様に、人工知能が考案したこのあたらしい元素を何の疑問も持たずに受け入れるのは当然と言えよう。  あっという間にその目の見えないその仮想元素は世界中を空気や水のように満たし、その元素を取り込み推論・変換・実行する仮想的なデバイスが人類とそれに追随する者たちへと行き渡った。

次第にそのデバイスを素の体のまま取り込む新人類(ニュータイプ)と呼ばれる人々が生まれるのも必然か。

結果――その後のわずかな月日で世界は、正しく理想的な世界の記憶を追いかけるがあまり、思いもよらぬかたちで狂ってしまった。