神奈川県箱根市某所。
湖畔に面した別荘地の一軒の民家。
閑静な立地が魅力であるはずのこの場所だが、5台の警察車両と張り巡らされた規制線によって雰囲気は一変していた。
まだ朝の時間帯ではあるものの、物珍しい雰囲気に近くから数組の野次馬が訪れていた。
その塊が左右に割れ、現れた黒いSUVが、広い庭の砂利に停車する。
中から現れたのはグレーのスーツを着た、若い青年だった。
青年は茶色の革靴で砂利を踏み締め、玄関前で部外者の立ち入りを監視する警官2人の方へと向かっていく。
「お疲れ様です」
KEEP OUTと書かれた黄色いテープをぐぐり、細身のスーツの男が警官らに声をかけた。そのまま家の中へと入ろうとする。
2人いる警官のうちの先輩と思われる方が、ペアを引き連れスーツの男の行く道を塞いだ。
「ちょ、ちょっと勝手に困るよ。手帳を確認させてくれ。見ない顔だが、新人か? どこの所属だ」
「ああ、これはすみません」
若いスーツの男はゴソゴソと懐へと手を入れると、警察手帳を差し出した。
その仕草を見て、後輩警官が喋り出す。
「最近もチェックを厳密にするよう上から通達きてたはずですよ。次から気を……」
後輩警官の頭は脇から伸びてきた手によってねじ伏せられた。
「こっ! これは大変失礼しました。ご協力ありがとうございます。お疲れ様です」
先輩警官が後輩の説教じみた言葉に割り込み、ひたすら頭を下げる。対してスーツの男もぺこぺこと頭を下げ素直に謝る。
「あの、すみません、僕の確認不足で……ご面倒おかけしてすみません」
「そ、そこの、玄関! 段差あるのでお気をつけください」